帚木 頭中将の語る常夏の女の話

 

皆様に愚かな自分のお話をお聞かせしましょう。

はじめは、この女とは長くは続かないと思ったんですよ。

ところがですな。一晩が二晩になり、だんだんと。
情が移ったというか、女にあわれを感じはじめたんです。
親がいないんですよ。心細げな生活ですよ。
でもね、全然自分の身の上を心配するでもなく、のんびりしておっとりしてて。
そのへんが俺をくすぐるんですね。

なれてくると、俺に頼ってくるようになって、はあ、かわいい女です。
こっちも、信頼に応えようと、将来の約束などもしました。
まもなく、子供もできました。

性格がおっとりしているんですなあ、この女は。
俺も、つい甘えて、長いこと行かなかったりしたんですよ。
通う間があいても、彼女は文句ひとつ言わない、それも、たまに来る男という感じではないんです。いつも、親しみがこもっているんです。

こっちも心苦しくて、できたら本妻にでも迎えたいくらいでしたよ。
ある日、女から和歌が送られて来ました。

『山(やま)がつの垣(かき)ほ荒(あ)るとも折々(をりをり)に
あはれはかけよ撫子(なでしこ)の露(つゆ)』
歌の意味はこんなだね。山の家だもの、私の家の垣根は荒れてもいいわ。でも、時々は、娘のナデシコにも露程でもいいから、あわれをかけてくださいな。

なんか、あれでしょう。
家の垣根が荒れるとは、あいつにしては、大げさだと思ったんですがね。
女ですから、子供のことを言って来るんでしょうと思っておったんです。
あとになって考えてみると、「家の垣根が荒れる」というのは意味があったんですなあ。

そのときは、行って返しの歌を詠みました。
『咲(さ)きまじる色(いろ)はいづれと分(わ)かねども
なほ常夏(とこなつ)にしくものぞなき』
(ト気取って)花が色々と咲くが、一番色っぽいのはお前だよ。常夏のお前に勝る女がほかに居るものか。

なんてね。ははは。
でも、さらにその返しの歌がちょっと変わってるんだ。

『うち払(はら)ふ袖(そで)も露(つゆ)けき常夏(とこなつ)に
あらし吹(ふ)きそふ秋(あき)も来(き)にけり』
真夏なのに秋が来たという意味だろ。
袖が濡れるのはわかる。私がご無沙汰だからね。申し訳ないんだ。
でも、夏なのに嵐ていうのが、変だと思ったのさ。

そして、その次に行くと、家がもぬけの殻。だれもいないんだ。びっくりしたよ。
それから、京の都中をずいぶん探したんだ。
だが、さっぱり消息がつかめないんだ。

実は、俺は知らなかったんだけれど、俺の妻の方が俺の浮気を知っていたんだ。
俺の本妻はご存じの「弘徽殿」の四番目の娘だろ。気が強いんだ。
どっから知るんでしょうな。子供がいることまで知ってたらしいです。

本妻が知り合いを通じて意地悪を女に伝えたらしいんです。
たぶん、のろい殺してやるとか、そんなところだろうと思うけどね。
俺は、そんなかわいそうな事があったとも知らず、のんびーり暮らしていたというわけでさ。

まだ、生きておれば、どこでどうして、はかない世の中をさすらっているでしょうなあ。
つくづく可哀想なことをしました。
辛いと思っているのもしらず、一方的に愛していたのも、単なる片思いですかなあ。
途絶えたりせずに末永い関係を持っていればよかった。
娘のナデシコもかわいかったんですが、どうしてしまったのやら。